近年、数ある行政書士の業務分野の中でも人気が高まる入管業務。
国際行政書士として、入管業務を専門に挑戦したいと考える方も多いでしょう。
入管業務ってどんな仕事?
入管業務ができる行政書士になるには?
入管業務の将来性は?
本記事では、入管業務に興味がある方の気になるあれこれを入管業務を取り扱う現役の行政書士が解説します。
入管業務とは

入管業務とは、在留資格(ビザ)に関する書類作成等のサポートを行う業務です。
在留資格とは?
外国人が日本で生活するために必要となる資格のこと
日本での「活動内容」や「身分」に応じて適正な在留資格を取得しなければ日本に滞在することができない
外国人のライフイベントの例 | 該当する在留資格 |
---|---|
日本人と結婚し、日本で夫婦生活を送りたい | 日本人の配偶者等 |
日本の会社で通訳・翻訳スタッフとして働きたい | 技術・人文知識・国際業務 |
日本で会社を設立して、経営者として経営活動を行いたい | 経営・管理 |
日本の大学に留学したい | 留学 |
観光で日本を訪れたい | 短期滞在 |
上記のように、「結婚」「就職/転職」「起業」「留学」などの日本で生活を送る外国人のライフイベントに応じて、適正な在留資格(ビザ)を取得する必要があります。
そのため、日本で生活をする外国人にとって在留資格は、
「命の次に大切なもの」
と呼ばれているほど重要なものです。
入管業務は大きな責任を伴いますが、同時に大きなやりがいを感じられる業務と言えます。
入管業務における基本用語
日本人として日本で生まれ育ち、海外経験が無い方からすると、入管業務は中々イメージが掴みにくいと思います。
(実際に私もそうでした。)
入管業務に興味がある方は下記の基本用語だけでも最初に理解しておくと、入管業務の全体像が掴みやすくなるでしょう。
基本用語 | 解説 |
---|---|
ビザ | 在留資格のこと (例:就労ビザ、配偶者ビザ、観光ビザ) 日本に滞在する外国人は必ず適法な在留資格を取得しなければならない 29種類の在留資格が存在する |
査証 | 在外公館で発給される日本への入国許可証のようなもの(=JAPAN VISA) 本来は「査証=ビザ」だが、世間では「在留資格=ビザ」の意味として使用されている |
在外公館 | 外国に設置している日本の機関(日本国大使館、領事館など) 外国人の方が日本へ入国する際、査証発給申請の窓口としての機能も果たす |
入管 | 出入国在留管理庁の略称 在留資格に関する手続きの窓口 |
入管法 | 出入国管理及び難民認定法の略称 在留資格に関する根拠法 |
在留カード | 日本で生活する外国人に交付される身分証明書のこと 運転免許証と同サイズの顔写真付きIDカードで、外国人は常に携帯しなければならない |
在留期限 | 日本に滞在できる期日のことで、在留カードに記載されている 在留期限を過ぎたまま滞在すると「不法滞在=オーバーステイ」となる |
在留期間 | 日本に滞在できる期間のことで、在留カードに記載されている 在留資格や個々の状況により異なるが、大体「1年」「3年」「5年」のいずれかとなる 延長するには都度、入管への更新許可申請が必要 |
旅券 | パスポートのこと 出入国の際はもちろん、在留資格の手続きにおいても必要となる |
入管業務の代表的な5つの手続き
お客様からのご依頼やご要望に沿って、
申請書類の作成
⇩
添付書類の収集
⇩
入管への申請
まで遂行するのが入管業務の大まかな流れです。
入管業務と一言で言っても、入管業務に関する相談や手続きは多岐に渡ります。
しかし、相談頻度、依頼頻度の高い入管業務となると概ね5つに絞られます。
- 在留資格認定証明書交付申請
- 在留資格変更許可申請
- 在留期間更新許可申請
- 在留資格取得許可申請
- 永住許可申請
① 在留資格認定証明書交付申請
海外に住んでいる外国人を日本に呼び寄せるために必要となる手続きです。
入管へ申請書を提出し、審査が通れば「認定証明書」が入管から交付されます。
この認定証明書を海外に住んでいる外国人本人に送付し、現地の在外公館で査証発給申請を済ませ次第、来日できます。
② 在留資格変更許可申請
現に保有している在留資格から、別の在留資格へ変更するための手続きです。
例えば、留学生が日本企業に就職するために「留学ビザ」から「就労ビザ」へ変更する際、変更許可申請が必要となります。
③ 在留期間更新許可申請
現に保有している在留資格で定められている在留期限を延長するための手続きです。
同じ在留資格で引き続き日本での滞在を希望する際は、在留期限が過ぎてしまう前に更新許可申請が必要となります。
④ 在留資格取得許可申請
日本で生まれた外国人や日本国籍を離脱して外国人になった元日本人などが、上陸手続きせずそのまま日本に滞在できるよう在留資格を取得するための手続きです。
例えば、日本で生活する外国人夫婦の間に子供が生まれた際、子供の在留資格の取得許可申請が必要となります。
⑤ 永住許可申請
日本の永住権を取得するための手続きです。
日本で長く生活を続け、将来的にも日本での生活を希望する外国人が行きつく在留資格のゴール地点のようなものです。
永住ビザが認められると在留期間は「無期限」となり、それまで定期的に必要であった在留資格の更新が不要となります。
また、活動制限(就労制限)も無くなるため、自由に仕事をすることが可能となります。
ただし、日本の永住権のハードルは高く、年々審査も厳しくなっております。
行政書士として実際に取り扱うことの多い在留資格は?
在留資格は全部で29種類あり、それぞれ細かくルールや基準が定められています。

すべての在留資格に精通していることが理想的ですが、一朝一夕で身に着けられるものではありませんし、闇雲に勉強を始めても頭に入り切らないかと思います。
そこで、あくまで私個人の話ですが、ご相談やご依頼をいただく頻度が比較的高く、取り扱うことの多い在留資格を下記にまとめました。
個人のお客様 | 法人(企業)のお客様 |
---|---|
□日本人の配偶者等 □永住者 □経営・管理(会社設立もセット) | □技術・人文知識・国際業務 □高度専門職 □特定技能 |
入管業務の全体像が把握できたら、まずは上記の在留資格を中心に理解を深め、徐々にその他の在留資格の知識を付け加えていくことをオススメします。
自己学習の継続と実務経験を重ねていき、入管業務の専門家を目指しましょう。
入管業務をするなら申請取次行政書士になるべき

上記の「届出済証明書」を取得している行政書士のことを申請取次行政書士と言います。
在留資格の手続きは原則「本人出頭」ですが、「届出済証明書」を保有する行政書士であれば、外国人本人に代わって申請書類の提出まで行うことができます。
申請取次:外国人本人に代わって申請書類を入管へ提出すること
申請取次行政書士:申請取次を行うことを認められた行政書士
行政書士として入管業務に挑戦するのであれば、「届出済証明書」の取得は必須です。
「届出済証明書」は「ピンクカード」とも呼ばれており、指定の研修を受講し、試験に合格することで取得可能です。
入管業務における3つの将来性

将来性その1. 在留外国人300万人時代のマーケット規模

日本に滞在する外国人は年々増加しております。
2012年~2023年の10年間で約140万人も増加し、2023年末時点で3,410,992人の外国人が日本で生活をしています。
至ってシンプルな考えですが、
日本に滞在する外国人が増えれば増えるほど、入管業務のチャンスも増える
と言うことです。
なぜ在留外国人が増加しているのか?
- 労働力不足の解消
- 国際的な人材交流の促進
- 留学生の増加
① 労働力不足の解消
日本では少子高齢化が進み、労働力が不足しています。
特に、建設業や介護、農業、飲食業といった分野における人手不足が深刻であるため、外国人労働者の受け入れが拡大しています。
2019年には、新たな在留資格「特定技能」が導入されたことで、今後更に日本で働く外国人が増えると予想されます。
② 国際的な人材交流の促進
日本は国際競争力を高めるため、ITやエンジニアリングなどの高度な技術を持つ外国人を積極的に受け入れています。
また、企業のグローバル化に伴い、外国人社員を採用する企業も増えています。
③ 留学生の増加
日本政府は2033年までに留学生40万人の受け入れを目標としていることから、海外からの留学生を積極的に受け入れています。
留学生は学業を修了後、日本企業に就職するケースが多く、そのまま日本で生活する方が増えています。
将来性その2. 登録支援機関としてのコンサルティング業務
よく耳にする話で、
行政書士は単発業務が多く、顧問サービスのような継続業務が少ない…
と言われております。
しかし、継続業務を見込める可能性が高い方法の一つに挙げられるのが登録支援機関への登録です。
一定の基準を満たせば、行政書士事務所も登録支援機関に登録することが可能です。
登録支援機関とは?
受入れ機関(「特定技能」外国人を雇用する企業)との支援委託契約により、支援計画に基づく支援の全部の実施を行う個人又は団体
下記の図「登録支援機関に係る制度の概要」に具体例を当てはめてみます。
「行政書士事務所(登録支援機関:図右上)」が
「建設会社(受入れ機関:図下部)」と
「支援委託契約」を交わし
「建設会社が雇う外国人労働者(1号特定技能外国人:図右下)」に対して
行政書士事務所が「支援計画の実施」を行います。

特定技能とは?
2019年4月から新たに導入された、人手不足が著しい特定の業種(例:建設業、介護業、外食業など)において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を受け入れるための在留資格。
ただし、外国人人材に対する支援計画の策定・実施などが義務付けられている。
登録支援機関が実施する支援計画は下記の図にまとめられております。

ここまでのポイントを整理します。
- 人手不足が深刻な業種を「特定技能」外国人労働者で補う
- ただし、外国人労働者に対する支援体制や雇用条件など、細かいルールがある
- 受入れ機関で全てを実施できない場合は登録支援機関に委託することができる
- 行政書士事務所も登録支援機関としての登録が可能
ちなみに、出入国在留管理庁によると、「受入れ機関」から「登録支援機関」へ支払っている支援委託料の平均金額は、
特定技能外国人1人当たり毎月28,386円
となっております。
参照:出入国在留管理庁|「技能実習制度及び特定技能制度の現状について」P32
例えば、特定技能外国人を10名受け入れている企業と支援委託契約を締結することができれば、「28,386円 × 10名=283,860円」の売上が毎月発生します。
さらに、行政書士であれば特定技能外国人の在留資格に関する手続きも加えて対応ができます。
行政書士に単発業務が多いことは否めません。
しかし、登録支援機関に登録して「受入れ機関へのコンサルティング」という継続業務に繋げることで、毎月安定した売上が見込めます。
将来性その3. 入管業務はオンライン申請が可能
出入国在留管理庁では、2019年7月から「在留申請オンラインシステム」の運用が開始され、「届出済証明書」を取得している申請取次行政書士であればオンラインシステムの利用ができるようになりました。
そのため、在留資格に関する申請手続きは、一部を除けばオンライン申請が可能です。
さらに、2023年3月17日からは、「在留資格認定証明書」を電子メールで受け取ることが可能になりました。
つまり、「海外へ郵送する手間、費用、時間が不要になった。」など、どんどん便利になっているので、これからに期待できます。
- 入管の待ち時間に悩まされない!
- 全国の入管へ申請ができる!
① 入管の待ち時間に悩まされない!
基本的に入管は非常に混雑しているため、1時間以上待つことがざらにあります。
しかし、オンライン申請であれば24時間365日受付可能なので、混雑する入管へ行かずに申請が完了します。
② 全国の入管へ申請ができる!
原則、外国人本人の住居地を管轄している入管が申請窓口となるため、遠方にお住まいのお客様からご依頼をいただいた場合は交通費や移動時間がかさみます。
しかし、オンライン申請であれば全国の入管へ申請が可能なので、遠方のお客様からのご依頼であっても対応可能です。
行政書士の入管業務の報酬

入管業務の報酬
日本行政書士会連合会が公表している報酬額統計では、在留資格や手続きの種類によって多少変動はあるもの、1件当たり約10~15万円が相場です。
ちなみに、外国人雇用をする企業と繋がることができれば、その企業の外国人労働者数×単価の報酬や顧問契約を得ることも可能です。
(年間発注数によって多少のディスカウントあり。)
入管業務は継続依頼にも繋がる
入管業務は一度ご依頼いただいたお客様から、再度ご依頼をいただくことがあります。
典型的なのが「在留期間更新許可申請」です。
やはり、お客様としては、申請書類の作成や住民票などの書類を収集する手間、何より混雑する入管へ行くのが面倒だと感じている方が多いです。
しかし、日本での生活を継続するための大切な手続きなので、最初から信頼できる専門家にお任せしたいと考える方も多くいます。
最後に 入管業務はやりがいのある業務分野
以上、行政書士の入管業務における業務内容や将来性の解説でした。
入管業務に未来を感じられましたでしょうか?
私の場合は現に売上の軸でもあるので、「入管業務は将来性のある業務分野」と十分言えます。
もちろん、入管法を始めとする専門知識の習得が必須となりますが、
お客様やクライアントも嬉しい
私も嬉しい
労働者の増加に関わり社会性もある
と、大きなやりがいを感じられる魅力的な業務分野であることは間違いありません。
この記事が入管業務に興味のある方の参考になれば幸いです。
以下の記事で入管業務に関するおすすめ書籍をまとめたので、興味がある方はぜひ。