行政書士の独立開業を検討した際に誰もが抱く不安要素、
実務の知識をどうやって習得するか?
私自身、実務経験0から独立開業しましたので、実務知識の習得には沢山悩み、不安でいっぱいでした。
本記事では、行政書士の実務知識の習得方法について私の経験談を交えて解説していきます。
実務を学ぶ際にやっておくべきこともまとめましたので、参考になれば幸いです。
行政書士実務知識で押さえるべき5つのポイント

まず行政書士の実務について、確実に押さえなければならない5つのポイントを紹介します。
私自身も未経験のご相談があった際は、事前にこの5つのポイントを徹底的に押さえてから対応に臨んでいます。
- 法令理解(審査基準及び用語理解)
- 申請書類の概要
- スケジュール
依頼受任⇒申請⇒審査期間⇒完了 - 申請窓口(管轄の役所・手数料の有無)
- アフターフォロー
① 法令理解(審査基準及び用語理解)
実務知識の習得は、法令の理解(審査基準及び用語理解)が最優先事項です。
これから独立開業を検討されている方であれば、自身が取り扱う専門分野に関する法令や用語について理解しましょう。
特に許認可業務を扱う場合であれば、審査基準を理解しておくことが必須です。
審査基準とは?
申請により求められた許認可等をするかどうかについて、その法令等の定めに従って判断するための必要な基準のこと
審査基準の例
- 経営管理責任者の配置(建設業の経営業務に関する一定期間の経験を有する者)
- 専任技術者の配置(許可を受ける建設業に関する専門的な知識や技術を有する者)
- 財産要件(500万円以上の資本を有する)
- 欠格要件に該当しない
- 施設基準(水道・換気・照明等の十分な設備、調理場と客席の明確な区画など)
- 食品衛生責任者の配置(食品生成責任者の講習修了者、調理師、栄養士等の有資格者)
- 欠格要件に該当しない
多くのお客様は目的とする許可が欲しいだけであって、許可を取得するための基準や法令を細かく理解しているわけではありません。
つまり、行政書士の大切な役割は、審査基準や法令をわかりやすくご説明しつつ、お客様が審査基準を満たしているか否かの判断をすること、満たしていない場合は許可を取得するために何を準備すべきかをご案内することです。
絶対にやってはいけないことが、
「できないこと」を「できる」と誤案内してしまうこと
です。
これは自身に経験があって対応できる・できないの話ではなく、法令的にそもそも許可されない手続きを「できる」と伝えてしまうことを意味します。
正式にご依頼を受けた後に、
やっぱり基準を満たしていないので申請できません
となると最悪の場合、損害賠償に発展する可能性もあります。
お客様のためにも、そして行政書士としての信頼を損なわないためにも、取扱う専門分野の法令については確実に押さえておきましょう。
② 申請書類の概要
すべての手続きに該当するわけではありませんが、申請書類は大きく分けて4種類あります。
申請書類 | |||
作成する書類 | 収集する書類 | ||
1.指定様式 | 2.任意様式 | 3.公的書類 | 4.その他 |
分類 | 内容 |
---|---|
1.指定様式 | 役所や自治体のHPに掲載されている申請書類の雛形 |
2.任意様式 | 書類の雛形が無く、必要に応じて自身で作成が必要となる書類 |
3.公的書類 | 住民票、戸籍謄本、登記事項証明書、納税証明書など役所で取得する書類 |
4.その他 | 資格証、賃貸借契約書、決算書、写真などお客様にご用意いただく書類 |
必要書類を把握することで、お客様に確認しなければいけないことや用意してもらう書類をスムーズにご案内できます。
また、住民票や戸籍謄本などについては、指定の委任状または職務上請求書を活用することでお客様に代わって収集することもできます。
職務上請求書とは?
業務を遂行するために必要な書類(他人の戸籍謄本や住民票など)を取得できる用紙のこと

③ スケジュール 依頼受任⇒申請⇒審査期間⇒完了
お客様としても、
依頼してからどれくらいで完了するのか
は気になるポイントです。
全体スケジュールを予め把握することで、自身の中で業務フローを構築することができます。
お客様が安心できるためにも、あなたのタスク管理のためにも、明確なスケジュールを立てられるようにしておきましょう。
④ 申請窓口(管轄の役所・手数料の有無)
続いて、申請書類の提出先となる役所や窓口を把握しましょう。
申請書類の雛形は、該当の役所ホームページから入手することになりますし、不明点があったときの問合せ先にもなります。
余談ですが、同じ手続きであっても地域によって、提出書類や書類の様式、記入方法などが若干異なる場合があります。
例:風俗営業許可申請の図面に記載する情報が地域によって異なる。
想定リスク:他事務所のコラム記事で解説された情報を参考に現地測量すると、情報に不足があり測量の二度手間が発生する。
たまに手続きの運用が予告なく変更される場合もあります。
準備に遅れが出ないよう、事前に提出先へ確認する方が良いでしょう。
そして、もう一つ忘れてはいけないのが手数料の確認です。
大抵の許認可申請は手数料が発生します。
必要となる手数料を把握しておき、お客様へ発行する請求書に、報酬額とは別に実費として手数料を記載することも忘れないようにしましょう。
⑤ アフターフォロー
無事に許可が取得できれば終了ではなく、その後に必要となる諸手続きや注意事項などがあります。
例えば、古物商許可であれば、帳簿付けが義務づけられていますし、会社設立であれば、設立後に労務や税務に関する手続き、届出が必要となります。
特に許認可は都度、変更手続きや更新手続きが必要となりますので、合わせてお客様へご案内できるように把握しておきましょう。
これらをご案内することは、当然お客様のためでもありますが、追加のご依頼に繋げるための施策でもあります。
ちなみに、私はご依頼業務の完了後に、お客様用の資料を最後にお渡ししております。
また、お客様の更新日を管理しておき、更新時期が近くなればメールでのご案内も差し上げています。
行政書士の実務知識を習得する方法7選

実務経験の無い方が行政書士の実務を習得する方法は結論7つしかありません。
- 書籍・インターネット・YouTubeを活用した独学
- 実際に依頼を受けながら覚える
- 行政書士会が主催する研修会に参加する
- 有料の実務セミナーを受講する
- 任意の勉強会に参加する
- 先輩行政書士に教えてもらう
- 行政書士事務所に勤務する
① 書籍・インターネット・YouTubeを活用した独学
実際に私も独学メインで実務知識を身に着けました。
最初に伝えておくと、実務経験0の方が実務知識を独学で習得するのはかなり大変です。
そのため、相当の覚悟を持って取り組む必要があります。
私の場合は、
①書籍で基本的な知識や全体像を把握
②インターネットやYouTubeを活用して知識を深める
と言う作業を延々と繰り返しました。
1.書籍を活用した独学
まず初めにやるべきことは、書籍を活用して基礎を押さえることです。
自身が今後、行政書士として取り扱う専門分野に関する書籍を選ぶことが前提ですが、最初に購入する書籍は読みやすい書籍にしましょう。
理由は単純で、最初から内容の充実した分厚い専門書や参考書を読み込むのは苦痛に感じるからです。
(私だけでしょうか…?)
読みやすい書籍だと多少内容は薄くなりますが、あくまで基本的な知識を身に着けることが目的なので問題ありません。
その後、自身の知識習得に応じて必要な書籍を随時購入していけばOKです。
入管業務に挑戦する方は、私が役に立ったと思う専門書を以下にまとめているので、ぜひ参考にしてください。
2.インターネットを活用した独学
書籍で基本知識をある程度押さえたら、次にインターネットで次のサイトをリサーチします。
行政書士事務所のサイト
役所の公式サイト
WEB集客に注力している行政書士事務所は、お客様が気になることをコラム記事に掲載しているため、そのコラム記事を読み漁ります。
行政書士が監修したコラム記事なので、信頼性もある程度担保されてますし、わかりやすくまとめられているため、とても参考になります。
ただし、中には古い情報のままのコラム記事もあるため、必ず複数の行政書士事務所サイトのコラム記事を確認するようにしましょう。
併せて、役所の公式サイトもリサーチします。
手続きの概要や必要書類の詳細、申請書類の雛形も掲載されていますので、必要に応じてダウンロードしておくと更に業務イメージが湧きます。
3.YouTubeを活用した独学
書籍やネットの情報だけで理解しにくい点については、YouTubeを活用しましょう。
現役の行政書士が業務や手続きの概要について解説する動画がありますので、必要に応じて動画検索してみることをオススメします。
② 実際に依頼を受けながら覚える
私の経験上、実際の依頼業務を最初から最後まで経験することが一番力になると感じます。
まさに、
百聞は一見に如かず
です。
当然、独学等で基本的な知識を最低限習得した状態であることが条件ですので、素人同然の状態で「とりあえず依頼を受ける」なんてことは避けましょう。
とは言っても、基本知識のレベルで依頼を受けることは正直不安だと思います。
しかし、その不安な気持ちが大きければ大きいほど、異常なほど慎重に業務を進められるのもまた事実です。
実際に私が知人以外で初めてご依頼を受けた時も書籍やネットで細かく情報収集しつつ、役所へ何度も問い合わせして、慎重に業務を進めました。
結果、問題なくスムーズに完遂できました。
(大変満足だったようで、今でも継続的にご依頼いただいています。)
「知っている」と「やったことがある」
は天と地ほどの差があります。
勇気を出して実務へ挑戦し、依頼を受けたら誰よりも何よりも慎重かつ丁寧に進めましょう。
③ 行政書士会が主催する研修会に参加する
行政書士会が定期的に開催する研修会があります。
無料で参加できる研修も一部ありますが、有料でも1,000~3,000円程度で参加できます。
研修資料や申請書類の見本などが配布される研修もありますので、費用を抑えて実務に関する知識を学ぶことができます。
ちなみに行政書士は行政書士登録日から3年以内に新人研修を受講することが義務づけられています。
新人研修は2日間に渡って開催され、会社設立、建設業許可、自動車手続き、相続業務などの王道業務が中心の講義です。
④ 有料の実務セミナーを受講する
大手の行政書士事務所や資格スクールが開催している有料の実務セミナーが多くあります。
受講料が20〜30万円程度と高額であることがほとんどですが、ベテラン行政書士から実務に関する知識や技術を教わることができますし、実際の業務で活用できるWordやExcelを手に入れることもできます。
金銭的に余裕がある方や独学で知識習得することに不安を感じる方は、受講を検討しても良いかもしれません。
また、有料の実務セミナーは、初回受講無料または数千円程度で参加できることもありますので、初回受講だけ参加してみるのも良いでしょう。
⑤ 任意の勉強会に参加する
行政書士会とは別に、複数人の行政書士によって構成されている任意団体が存在します。
任意団体によって活動頻度、活動内容、会費、会員数などが異なりますが、主に「勉強会」と「懇親会」を開催しています。
任意団体への加入方法は基本的に紹介してもらうか、もしくは行政書士登録後に自身の事務所宛に案内状が届く場合があるので、その案内状から直接申し込む方法のいずれかです。
あまり見かけないですが、任意団体によってはSNSで活動状況を発信していることもあるので、直接DMを送るのも有効でしょう。
⑥ 先輩行政書士に教えてもらう
先輩行政書士から直接教えていただくためには、研修会や支部会開催のイベントへ参加し、積極的に名刺交換をして自身の顔と名前を覚えてもらう必要があります。
当然、経験や実績豊富な先輩行政書士は忙しいですし、かと言って経験や実績の乏しい先輩行政書士に教わってもあまり効果的ではありませんので、教わりたい先輩行政書士を見極めることも大切です。
⑦ 行政書士事務所に勤務する
一番間違いないのは行政書士事務所に勤務することですが、行政書士の求人数は残念ながら多くはありません。
都心であれば正社員募集の求人を見かけますが、地方の場合ですとほとんど求人が無く、あったとしてもパート・アルバイト採用です。
限られた求人数に対して、同じような行政書士有資格者が多数応募していることが予想されるため、競争率の観点から行政書士事務所へ勤務すること自体、ハードルが高いでしょう。
実務の勉強に注力しすぎない

行政書士業務の実務は、3ステップに分けられると個人的に思います。
- 知っている
- 知識だけ習得している状態
- やったことがある
- 実際に業務に携わった経験が一度でもある状態
- できる
- 実績と経験を重ねて自信のある状態
まずは「知っている」状態になるためにも、実務の勉強をすることが優先ですが、いつまでも勉強に注力していても結局「知っている」止まりです。
実務の勉強は試験勉強と違ってゴールが無いため、どれだけ勉強しても終わりが見えず、永遠に不安なままです。
つまり、いつまでも実務の勉強に注力しすぎないで、一定の基本知識を身に着け次第、実務に立ち向かう勇気を持つことが大切になってくるのです。
「知っている」行政書士
よりも、
「やったことがある」行政書士
には敵いませんし、
「やったことがある」行政書士
でも、
「できる」行政書士
には敵いません。
いつまでも知っている止まりの行政書士のままにならないよう、実務の勉強だけではなく、実際に依頼を受けるためにも「マーケティングの勉強」や「営業活動」にも注力しましょう。
実務を勉強する際に一緒にやっておくべきこと

実務を勉強する際にやっておくべきことがレポートの作成です。
ノートや手帳にまとめるより、WordやExcel等のデータに残すことをオススメします。
私はGoogleのスプレッドシートでレポートを作成していました。
(外出先や携帯からも確認できるため)
覚えた知識をアウトプットする作業にもなるので、知識定着にも効果的ですし、書き溜めたレポートが自分専用のマニュアルになります。
また、WEB集客を検討しているのであれば、作成したレポートをコラム記事に流用できます。
私の事務所サイトにもコラム記事を多数掲載してますが、私が書き溜めたレポートから引用して作成した記事が大半です。
コラム記事を1本作成するのは大変な作業ですが、レポートから引用できるため、効率的にコラム記事を量産できます。
- 手続きの概要
- 審査基準
- 必要書類
- スケジュール
- 用語解説
将来の資産になるため、知り得た情報や知識は全てレポートに残しておきましょう。
最後に 勇気と責任を持つ
以上、行政書士の実務を学ぶ方法を解説しました。
- 法令理解(審査基準及び用語理解)
- 申請書類の概要
- スケジュール
依頼受任⇒申請⇒審査期間⇒完了 - 申請窓口(管轄の役所・手数料の有無)
- アフターフォロー
- 書籍・インターネット・YouTubeを活用した独学
- 実際に依頼を受けながら覚える
- 行政書士会が主催する研修会に参加する
- 有料の実務セミナーを受講する
- 任意の勉強会に参加する
- 先輩行政書士に教えてもらう
- 行政書士事務所に勤務する
実務を学ぶ方法はいくつもありますが、まずは独学で勉強してみることを個人的にオススメします。
そして何よりも実際に依頼を受ける「勇気」を持つことを忘れないでください。
全国で活躍しているベテラン行政書士の方々も、最初の案件は不安だったはずです。
それを乗り越えて現在の実績や専門性を確立しているのです。
この記事がこれから行政書士を目指す方の参考になれば幸いです。
一緒に頑張っていきましょう。
入管業務に挑戦する方は、私が役に立ったと思う専門書を以下にまとめているので、ぜひ参考にしてください。