事務所経営を”なんとなく”で進めてしまっていませんか?
特に目標値とかは決めていない
売上はあるけど、何が要因か分からない…
そんな“なんとなく経営”から脱却するには、KPIの導入(=数字の管理)が有効です。
KPIは、目標達成に向けた明確な根拠のある道筋、いわば”論理的な経営”を実現するための羅針盤です。
仮に、KGI(最終目標)を掲げたとしても、KPI(中間指標)が曖昧なままでは、
- 何がいけなかったのか?
- どこで躓いているのか?
- 問題点・改善点はどこにあるのか?
- どのようなアクションを取るべきか?
といった分析が曖昧になり、感覚だけの経営となってしまいがちです。

一方で、KPIを設定しそれぞれに数値目標を立てていれば、
- KPIに対し、面談数が2件足りない
- 問合せ数はどう?面談率は?
- 問合せ数は達成、面談率が未達
- 面談率に問題がある!
- 面談率の改善策を考える
- 問合せ後のフォローを工夫してみよう
と、問題点を発見しやすくなり、数字を根拠に次のアクションプランを定めることができるようになります。

このように、根拠を明確にする”論理的な経営”を実現できれば、目標達成の可能性は上がるでしょう。
本記事では、現役の行政書士がKPI設定・運用のコツをわかりやすく徹底解説しています。
「なんとなく忙しい」を卒業し、「結果につながる行動」を明確にしていきましょう。
KPI設定の4ステップ

私が実際にKPIを設定するときのステップを紹介します。
- KGI(最終目標)を決める
- KGI達成のための要素を書き出す
- KPIにする要素を決める
- KPIの目標値と施策の期待値をそれぞれ置く
① KGI(最終目標)を決める
まずは、最終目標となる数値(KGI)を決めます。
KGIとは「ゴール」となる指標で、売上や利益など“結果”を表す数字です。
例えば、行政書士事務所なら
- 年商1,000万円
- 顧問契約数50件
- 3拠点に拡大
などがKGIの例になります。
KGIを決めるときのポイントは、できるだけ具体的な数値にすることです。
「売上を上げたい」では曖昧ですが、「年商1,000万円を達成する」なら進捗も測りやすくなります。
行政書士事務所のKPI項目については、以下の記事で解説していますので、ご参考にどうぞ。
② KGI達成のための要素を書き出す
続いて、KGI(最終目標)を達成するために”必要な要素”をひたすら書き出していきます。
例えば、行政書士事務所のKGI(最終目標)を「年商1,000万円」とするなら、KGIの達成に必要な要素は、
- 月商:83.3万円
- 受任数:5件/月
- 問合せ数:15件
- 顧客単価を上げる
- WEBサイトのSEO・広告流入
- WEBサイトの記事を増やす
- 見込み顧客のリスト化
- DMの送信
- リピート客を増やす
などが挙げられます。
このステップで重要なのは、”KGI達成のためにできること”をまずはひたすら書き出してみることです。
と言っても、実際は無限に書き出せますし、初めは難しいと感じるかもしれません。
そこで、初心者の方でも要素を整理しつつ書き出せる2つの手法を紹介します。
具体例も交えますので、参考にしてみてください。
1. KPIツリーで分解
1つ目は、KGIの要素を分解してKPI候補をツリー状にまとめることです。
KPIツリーは、
最終目標に向けて何をすべきか
を見つけるためによく使用されます。
例として、「行政書士事務所の売上」をKGIとした時のKPIツリーを図にしてみました。

上記の図で言うと、「売上」達成のためには、「受任数」「単価」が重要指標となる。
続いて、「受任数」達成のためには、「面談数」「受任率」「リピート数」が重要指標に。
「面談数」達成のためには…。
このように、
〇〇達成のためには…
と下の階層まで要素を書き出すことで、KPIツリーが出来上がります。
さらに突き詰めていくと、下記の図のように最下層には”施策”が該当します。

KGIの要素をツリー状に書き出して整理することで、「目標に向けて何をすべきか」の”見える化”ができます。
KPI候補は「四則演算( + – × ÷ )」ができる要素にすることがポイント
2. 業務プロセスで分解
2つ目は、KGIの要素を業務プロセスで分解することです。

業務プロセスで分解するメリットとしては、
一つの営業活動(施策)がどのくらいの成果を生むか
を細かく可視化することができます。
KPIツリー:KGI達成の全体像(要素・施策)を把握
業務プロセス:各施策の成果見込みを可視化
③ KPIにする要素を決める
KGI達成の要素を洗い出したら、次に”KPIとして設定する要素”を決めていきます。
このステップでは、書き出した要素の中から「最も影響力が大きく、数値で管理できる」ものを選ぶことがポイントです。
例えば、「数値で管理できる」ものは以下のように判断します。
書き出した要素 | 数値管理 | 理由 |
---|---|---|
問合せ数 | ○ | 具体的な数値で計測可 |
受任数 | ○ | 同上 |
サイトの印象を良くする | × | 抽象的で測定が難しい |
問合せ数や受任数は、5件10件と具体的な数値を置くことができるため、KPIとすることに向いています。
一方で、数値化できない要素(例:サイトの印象UP、丁寧な対応など)はKPIと決めずに、「行動指針」や「チェックリスト」など別の形で管理するのが適切です。
次に、「影響力が大きい」ものは、KPIツリーを見るとわかりやすいです。

ツリーには、下層のKPI(例:問合せ数)を達成することで、初めて上層のKPI(例:受任数)を狙えるという関係性があるため、「下の階層にある要素ほど影響力が大きい」ということがわかります。
KPI候補 | 影響力 | 理由 |
---|---|---|
問合せ数 | 大 | 集客力を上げることが最重要 |
受任数 | 小 | 問合せがなければ受任もない |
また、個人事務所ならメインで追いたいKPIは多くても2〜3個程度に絞ることをオススメします。
KPIの数が多すぎると管理が煩雑になりどこに注力すべきか見えにくくなるためです。
事務所の成長に合わせて、メインで追うKPIを見直ししていきましょう。
④ KPIの目標値と施策の期待値をそれぞれ置く
最後は、KPIと施策に具体的な数値をそれぞれ当てはめていきます。
KGI達成から逆算して、
- KPIはどのくらいの数値を目指すべき?
- 施策はどのくらいの数値を得られそう?
という観点で、KPIの目標値・施策の期待値をそれぞれ数字で置くことにより、KPIを設定することができます。
例えば、「KGI:年商1,000万円」とした場合、KPIの目標値・施策の期待値は次のように置くことができます。
年商1,000万円の達成には「どのくらいの数値が必要か」を置く
KPIの目標値は、KGIから逆算で求めよう
各施策で「どのくらいの数値を得られそうか」を置く
このように具体的な数値を置くことで、「KGI(最終目標)」と「現状」の差が分かり、課題が明確になります。
もし、洗い出した「施策の期待値」がKPI達成に足りないなら、ここまでの②〜④のステップを繰り返し、
このギャップを埋めるために何ができるか
を突き詰めていくことで、より正確なKPI設定ができるようになります。
KPI設定・運用のコツ

ここまでKPI設定のステップを紹介しましたが、
目標を決めたことない…
数字に苦手意識がある…
という方ほど、的外れな数値をKPIにしがちです。
そのような方へ紹介する”KPI設定・運用のコツ”は、「KPIはSMART(の法則)で設計しよう」です。
SMARTの法則とは?
目標設定のためのフレームワークのこと
5つの要素の頭文字が呼び名の起源
- Specific(具体的)
- Measurable(測定可能)
- Achievable(達成可能)
- Relevant(関連性のある)
- Time-bound(期限のある)
KPIを「SMARTの法則」で設定することで、より効果的な目標管理が可能になります。
それでは、「SMARTの法則」について”よくある失敗例”も交えて解説しますので、
あなたが設定したKPIが「SMART」であるかどうか
以下を参考に確認してみてください。
Specific(具体的)
1つ目は「Specific(具体的)」です。
曖昧な表現ではなく、「いつまでに何を達成するか」が明確になっていることを意識しましょう。
施策ごとの期待値が置かれたままで放置されている
失敗例:あれもこれも中途半端に着手している
→人間には稼働の限界があります。優先度の高い施策に絞って行動しましょう。
「いつまでに」が重要
遅れに応じたリカバリープランを事前に設定しておくことで、問題の早期解決が期待できます。
Measurable(測定可能)
2つ目は「Measurable(測定可能)」です。
目標の達成度を「数値で測れる」ことを意識しましょう。
数値で計測できないKPIを設定している
失敗例:サイトの印象を良くする、好感度アップ
→数値で計測できるように、サイトの滞在時間や顧客満足度に置き換えましょう。
割合(%)を重要なKPIにしている
失敗例:メインKPIが面談率や受任率
→割合よりも件数を追いましょう。受任率50%と言っても、「2件中1件」と「20件中10件」では大きく違います。分母が安定しているなら割合も有効。
定期的な振返りが重要
進捗は毎週、毎月と定期的に確認しましょう。また、「未達成」だけではなく「なぜ達成できたか」も含めた要因分析が意外と重要です。
Achievable(達成可能)
3つ目は「Achievable(達成可能)」です。
無理な目標ではなく、「努力すれば達成できる現実的な目標」であることを意識しましょう。
現実的ではない数値を設定している
失敗例:全KPIを一律で前年比200%
→現状を分析し、達成可能性のある数値を置きましょう。優先して改善すべきポイントがわかりやすくなります。
KPIにバッファ(余裕)がない
失敗例:KPIを1パターンのみ作成した
→ミニマム、中間、マックスのKPIを考えておくと、振返りの時に改善すべきポイントがわかりやすくなります。
未達理由は正確に把握しよう
仮に未達理由が「毎月同じ」なら、真の未達理由が別にあるはずです。徹底的に原因分析を行い、再発防止策を立てましょう。
Relevant(関連性のある)
4つ目は「Relevant(関連性のある)」です。
目標や戦略に「関連性がある」ことを意識しましょう。
KGIに対しKPIを全て洗い出せていない
失敗例:KPIが新規受任数5件のみ
→受任は「新規+既存」もあり得ます。KGI達成の要素を細かく分解してKPI設定しましょう。
KPIツリーを書くべし
KPIツリーで全体像を捉えることで、KGI・KPI・施策の関連性がはっきりと見えてきます。
Time-bound(期限のある)
5つ目は「Time-bound(期限のある)」です。
目標達成の「期限が明確になっている」ことを意識しましょう。
リードタイムを考慮していない
失敗例:問合せ数、面談数、受任数を単月で達成するように設定した
→案件によっては、初回相談から2〜3か月後に受任する場合があります。時期を逆算して調整しましょう。
最後に 感覚だけの経営は今すぐやめる
以上、KPI設定・運用のコツを解説しました。
- KGI(最終目標)を決める
- KGI達成のための要素を書き出す
- KPIにする要素を決める
- KPIの目標値と施策の期待値をそれぞれ置く
KPIは論理的な経営を実現するための羅針盤です。
あなたの最終目標を達成するために、まずは「数値の根拠(現状値・目標値・施策の期待値)」を明確にしましょう。
そして、一番大切なことは、目標達成に向けて一つ一つの施策に全力で向き合うことです。
小さな検証と改善を繰り返すことで、事務所の収益性・安定性は向上していきます。
夢の実現に向けて、一緒に頑張りましょう。