行政書士として独立開業することは起業することと同義であり、多くの方にとってはまさに人生を賭けた挑戦です。
独立開業前の準備が大切であることは言うまでもありませんが、
具体的に何から準備すればいいの…?
と足踏みしてしまう方もいるかもしれません。
本記事では、そのような方にもわかりやすく伝えられるよう、独立開業前に絶対やっておくべきことを3つに絞らせていただきました。
開業準備を乗り越えた現役の行政書士だからこそ伝えられることがありますので、ぜひ参考にしてください。
行政書士の独立開業前に絶対やっておくべきこと3選

これから行政書士として独立開業を目指す方は、まず次の3つの項目に沿って準備を進めていきましょう。
- 事業計画を立てる
- 資金を確保する
- 税務・労務に関する知識を習得する
① 事業計画を立てる

独立開業前、一番初めにやるべきことが事業計画の作成です。
独立開業 = 起業
ですので、事業計画が曖昧なまま勢いで開業してしまうと、早期廃業リスクが高まるのは言うまでもありません。
(まさに私がそうでした…。)
しかし、
事業計画ってなに?
具体的にどうやって作ればいいの…?
と、何をどのように計画すれば良いのかすら検討がつかないと思いますので、一旦、次の項目を参考に事業計画を考えてみましょう。
- 開業地域(どこで?)
- 専門分野(何を?)
- 顧客ターゲット(誰に?)
- 報酬額(いくらで?)
- マーケティング戦略(どうやって集客する?)
a. 開業地域
まずは【どこで開業するか?】です。
行政書士は事務所の設置が必須ですので、「開業地域 = 事務所所在地」と言えます。
特段の事情が無ければ一旦、自身が住んでいる地域で検討して良いでしょう。
ただし、状況によっては顧客獲得が見込める地域へ転居するという選択もあります。
なぜなら、人口の多い地域ほど仕事のチャンスが増えるためです。
もちろん、比例して競合他社も増えるため、勝ち抜く戦略をしっかりと立てましょう。
なお、人口が少ない地域では、競合が少ないため仕事のチャンスがあると言えますが、仮に競合が0なら仕事がない、または生き残れなかった可能性も考えられます。
開業地域の選択には、地域の調査と戦略も踏まえて検討しましょう。
ちなみに、最も行政書士登録者が多い地域は東京都になります。
都道府県行政書士会 | 個人会員数 | 法人会員数 |
---|---|---|
東京都行政書士会 | 8,090 | 360 |
大阪府行政書士会 | 3,853 | 152 |
愛知県行政書士会 | 3,373 | 105 |
┊ | ┊ | ┊ |
鳥取県行政書士会 | 215 | 3 |
開業する地域が決まったら、事務所の候補物件も決めておきましょう。
「自宅兼事務所」か「賃貸事務所」のどちらを選択するかも重要になりますので、詳しくはこちらの記事「1.行政書士事務所の確保」もご覧ください。
b. 専門分野
次は【何を専門とするか?】です。
行政書士は「扱える業務の範囲が広い」ということが魅力である一方、「具体的に何ができる人なのかがわかりにくい職業」とも言えます。
だからこそ、自身が取り扱う専門分野を明確にしておくことが重要になります。
専門分野が決まっていない場合

行政書士です!
許認可申請に関する書類作成の他、契約書や遺言書も作成できます!

書類を作れるのはわかったけど、
結局、何が得意な人なんだ?
専門分野が決まっている場合

行政書士です!
私は〇〇業が専門のため、「〇〇申請」「〇〇届」等に関するご相談やご依頼を中心にお受けしています!

〇〇業に関する専門家ね
〇〇のことを細かく聞きたいな!
専門分野を何にしようか迷ったときは?
自身の専門分野を決めるのは他でもない自分自身です。
しかし、中々決まらない場合は、
「興味 × 需要 × 収益性」
の掛け算で考えてみることをオススメします。
「興味」は、シンプルに自身がやりたいと思える分野かどうかです。
専門家であるということは、その分野に関する勉強を継続し、常に法改正などの最新の情報にアンテナを張り続け、まさにその道を極めていくことになります。
そのため、少しでも自身が「やりたい」と思える分野でなければ、モチベーション維持が困難になることが予想されます。
「お金が稼げる分野なら何でもいい!」という考えの方は別ですが、せっかくなら自身が少しでも興味を持てる分野や、経験や経歴を活かせられる分野を探してみましょう。
次に「需要」は、簡単に言うと市場の大きさ、許認可で言えば申請件数のボリュームです。
例えば、年間の申請件数が100万件ある分野と、年間の申請件数が10件しかない分野なら、前者の方がチャンスはあると言えます。
各省庁、自治体が年間の申請件数に関する統計データ等を公表している場合があるので、「〇〇許可申請 年間件数」のようなキーワードで一度検索してみても良いでしょう。
専門分野を決めるポイントやその重要性については、こちらの記事で解説しているのでご参考にどうぞ。
c. 顧客ターゲット
続いて【顧客ターゲットは誰か?】です。
つまり、誰に対してサービス提供するかを明確にすることです。
ターゲットが明確になれば、顧客に刺さる文章が書けるなどマーケティングに活かすこともできます。
なぜそうなるかを紐解いていきます。
まず、ターゲットの範囲についてですが、専門分野が決まればある程度は絞られます。
次に、その顧客が抱える不安・悩み・求めるものを徹底的に分析して、行政書士へ依頼すべき理由や自社に依頼する価値を探し出します。
なお、大前提として行政書士が提供するサービスの特性上、
依頼をせずに自力で手続きを進める(自己申請する)方が一定数いる
ということを理解しておきましょう。

当然、最初から行政書士へ依頼する前提で情報収集する方もいますが、そうでない方にも、
自分でやるより行政書士(専門家)を利用した方が良いかも!
と思ってもらうことも大切です。
では、行政書士に依頼すべき理由や価値を探し出すことができたら、数多くある行政書士事務所の中から
あなたに依頼したい/相談したい!
と思わせるにはどうすれば良いかを考えます。
具体的には、
自身のセールスポイント(あなたに依頼すべき理由や価値)を洗い出す
↓
セールスポイントが顧客にどのようなベネフィット(恩恵)をもたらすかを整理する
↓
ベネフィットが伝わるよう文章を構築する
これをとことん追求していきます。
以上のように、「誰に対してサービス提供するか」を明確にすれば、顧客の抱える不安・悩み・求めるものを具体的にイメージできるようになります。
そして、行政書士へ依頼すべき理由や自社にご依頼いただく理由などの顧客へ訴求すべきメッセージが組み立てられるようになります。
d. 報酬額
次に事業計画で決めるべきことは【いくらで売るか?】です。
行政書士の報酬額については、自身で自由に設定が可能です。
顧客が比較検討する際の判断基準として「報酬額」は大きな判断材料の1つです。
開業当初は、日本行政書士会連合会を公表している報酬額の統計と、自身の開業地域における競合他社10社程度の報酬を参考に、平均値で価格設定するのが良いでしょう。
e. マーケティング戦略
最後は【どうやって集客するか?】です。
独立開業後の最大の難所は「集客」、つまりマーケティングです。
マーケティングとは、「モノやサービスが売れる仕組」を意味し、大きく2つの手法に分類されます。
- アウトバウンドマーケティング(PUSH型)
…顧客へアプローチする - インバウンドマーケティング(PULL型)
…顧客の興味関心を惹く
アウトバウンドマーケティングの例 | インバウンドマーケティングの例 |
---|---|
テレマーケティング | ホームページ |
ダイレクトメール | SNS |
ポスティング | YouTube |
広告全般 等 | セミナー開催 等 |
一概にどの手法が正しいとは言えず、最適解は人によって異なります。
成功している行政書士の方でも、マーケティング手法は多種多様ですし、複数のマーケティング手法をうまく組み合わせている場合が多い印象です。
ちなみに私は「広告×ホームページ」に完全特化しており、それ以外の手法は現在実施しておりません。
いずれのマーケティング手法を選択するにせよ共通して考えるべきことは、次の4つの段階をそれぞれ明確に対策しておくということです。
- 【認知】
どうやって知ってもらうか? - 【興味・関心】
どうやって興味関心を持ってもらうか? - 【比較・検討】
どうやって比較・検討の候補に入るか? - 【購入】
どうやって依頼してもらうか?




このように、複数の行政書士事務所(競合他社)との競争に打ち勝ち、お客様に選んでいただくような戦略と施策を考える必要があります。
現在は「独立開業 = ホームページ作成」が当たり前になっているので、まずはホームページでの集客に向けた準備を進めると良いでしょう。
ホームページが必要な理由はこちらの記事にまとめていますので、ご参考にどうぞ。
② 資金を確保する

事業計画が定まったら資金の準備です。
資金は、
・開業資金
・運転資金(1年分)
・生活費(1年分)
の合計額を最低限確保しましょう。
項目 | 内訳 |
---|---|
開業資金 | 60~90万円 (行政書士登録費用約30万円 + 備品購入等) |
運転資金 (1年分) | 120万円 (固定費が月10万円を想定) |
生活費 (1年分) | 180万円 (生活費が月15万円を想定) |
合計 | 360~390万円 |
ちなみに、もし私が独立開業の準備に明け暮れていた日に戻れるなら、上記にプラスで、
・広告費として150~200万円程を用意
・開業前にホームページをある程度作成
も準備して、行政書士登録が完了次第、速やかにホームページの公開&広告運用を開始し、売上を作りにいきます。
収支計画を立てる
開業資金の次は、開業後の直近1年間の収支を計算してみましょう。
売上(入ってくるお金)
– 支出(出ていくお金)
= 利益(残るお金)
を明確にすることで、準備すべき運転資金の額、月次売上、受注数(依頼数)の目標も具体的になってきます。
こちらは開業後の年間収支計画の簡単な例です。
項目 | 1か月目 | 2か月目 | 3か月目 | 4か月目 | 5か月目 | 6か月目 | 7か月目 | 8か月目 | 9か月目 | 10か月目 | 11か月目 | 12か月目 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
受注数 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2 | 2 | 3 | 3 | 4 | 4 | 5 | 5 |
平均単価 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 |
売上 | ¥0 | ¥0 | ¥0 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥200,000 | ¥200,000 | ¥300,000 | ¥400,000 | ¥400,000 | ¥500,000 | ¥500,000 |
地代家賃費 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 | ¥65,000 |
水光熱費 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥15,000 |
通信費 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 | ¥5,000 |
消耗品費 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 | ¥2,000 |
交通費 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 | ¥10,000 |
雑費 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 | ¥3,000 |
諸会費 | ¥0 | ¥0 | ¥0 | ¥18,000 | ¥0 | ¥0 | ¥18,000 | ¥0 | ¥0 | ¥18,000 | ¥0 | ¥0 |
販管費 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥118,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥118,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥118,000 | ¥100,000 | ¥100,000 |
利益 | ¥-100,000 | ¥-100,000 | ¥-100,000 | ¥-18,000 | ¥100,000 | ¥100,000 | ¥182,000 | ¥200,000 | ¥300,000 | ¥282,000 | ¥400,000 | ¥400,000 |
こちらを参考に、ご自身の場合で当てはめて考えてみましょう。
開業前に必ずクレジットカードを作成しておこう!!
これから開業予定であるなら、開業前に必ずクレジットカードを作成しておくことをオススメします。
理由は全部で3点です。
個人事業主の場合、売上が0円だと当然収入も0円です。
つまり、審査上「収入が不安定である」と判断され、クレジットカードの新規作成が難しくなります。
現在、お勤めされている方は、安定した収入があるタイミングでクレジットカードを作成しておきましょう。
ちなみに私は、元々1枚だけクレジットカードを持っていたので、独立開業前に追加で2枚作成し、合計3枚のクレジットカードを所有した状態で独立開業しました。
枚数 | 種類 | 内容 |
---|---|---|
1枚目 | プライベートカード | 元々持っていたカード ※開業前に「ショッピング枠」と「キャッシング枠」の増額申込みをしておく |
2枚目 | プライベートカード | 開業前に追加作成したカード ※資金繰りや生活費で困った時に備えた「お守り」 ※緊急時以外は使用しない ※「ショッピング枠」と「キャッシング枠」をなるべく多く確保しておく |
3枚目 | 事務所用カード | 開業前に追加作成したカード ※事務所運営用。消耗品や備品、広告費などで使用する |
フリーランスで独立した友人から「会社辞める前にクレカは絶対作成した方がいいよ」とアドバイスをもらっていたので私も作成しました。
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③ 税務・労務に関する知識を習得する

個人事業主の税金・社会保険の仕組を理解する
会社に勤めている際は、毎月の給料から税金、社会保険料が天引き(=源泉徴収)されていたため、税金や社会保険のことを気に掛けることはほとんど無かったはずです。
強いて言えば「なんでこんなに引かれるの…。」というやるせなさくらいでしょう。
行政書士で独立開業する方は「個人事業主」としてスタートする方が大多数です。
個人事業主になると、自身の税金、社会保険については全て自分で手続き&支払いをする必要があります。
そもそも個人事業主には「給料」という概念がありません。
年間売上から年間経費を差し引いた額が「所得」になり、その所得金額に応じて税金を納めることとなります。
これらを計算して税務署へ毎年申告する手続きを「確定申告」と言います。
また社会保険については、国民年金に加入して年金を支払い、国民健康保険に加入して健康保険料を納め、保険証を手に入れます。
何よりも税金に関する知識は、重点的に理解しておくべきです。
どこまでが経費として認められる?
どんな控除がある?
と言った点を勉強しておかないと、税金を多く支払うことになってしまい、損をする可能性があります。
脱税は絶対NGですが、節税はすべきです。
理想を言えば、開業時から税理士さんにお任せしたいところではありますが、毎月の顧問料が発生しますので、開業当初は自身の経験のためにも勉強しながら知識を蓄えていきましょう。
個人事業主の税金や社会保険の仕組みを漫画で理解できるオススメの書籍がございますので、よろしければご覧になってみてください。
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準備が整ったら登録申請へ
登録申請についてはこちらの記事にまとめていますので、ご参考にぜひ!
最後に 廃業で後悔する前に…
行政書士の独立開業は事前準備が非常に重要です。
見切り発車での独立開業は「廃業」のリスクを高めますので、これから開業される方は私がまとめた3つの項目を参考にしてみてください。
- 事業計画を立てる
- 資金を確保する
- 税務・労務に関する知識を習得する
また、事業計画においては、どこで開業し、何の専門分野で、誰に、いくらで、どうやって集客するのかを明確にしましょう。
- 開業地域(どこで?)
- 専門分野(何を?)
- 顧客ターゲット(誰に?)
- 報酬額(いくらで?)
- マーケティング戦略(どうやって集客する?)
本記事をご覧いただいている方の独立開業が成功しますように。
一緒に行政書士やりましょう。
開業に必須/おすすめアイテムを以下の記事で網羅しています!
開業準備を進める方はぜひ。